ヴァージン・ギャラクティック、3回目の有人試験飛行に成功
リチャード・ブランソン氏率いるヴァージン・グループの宇宙旅行会社、ヴァージン・ギャラクティックは2021年5月22日(米国時間)に3度目の有人試験飛行を実施し、予定高度に到達したことを発表しました。
ヴァージンギャラクティック、宇宙飛行成功!スペースシップ2ユニティ、スペースポートアメリカから初の試験飛行で89.2kmに到達。2019年2月にモハべスペースポートで実施した以来となる。今年あと3回。次回は雇用者4人搭乗、次々回はリチャード・ブランソン搭乗、その後はイタリア空軍のミッション。
— 大貫美鈴Misuzu Onuki (@mszmail) May 22, 2021
テスト飛行の動画がYouTubeの公式チャンネルで公開されていました。
また、CNNの日本語記事でも以下のように報じられています。
スペースシップ2の2号機「VSSユニティー」はパイロット2人を乗せ、高度約89.2キロの宇宙空間に到達した。米政府は高度50マイル(約80キロ)以上を「宇宙空間」と定義している。
https://www.cnn.co.jp/fringe/35171151.html
同社は2022年早期のサブオービタル宇宙旅行の商業フライト開始に向けて2021年5月中旬の試験飛行を予定していましたが、乗客が乗る子機(スペースシップ2)を上空に運ぶ母機の問題で試験飛行が延期になっていました。試験飛行に成功したことで商業フライトの実現に一歩近づいたことになります。
市場は試験飛行を前に上昇傾向に
また、市場は試験飛行を前に若干の回復傾向を見せていました。(ただ、これは2021年2月21日に記録した最高値の62.80米ドルと比較すると約3分の1という水準です。)
一方でヴァージン・ギャラクティック社は「サブオービタル宇宙旅行」の実現に向けて引き続き課題を残しています。
それは「どこからが宇宙なのか」問題です。
「宇宙」の定義は?
まず、宇宙はどこから始まるのか、その高さは実は明確には定まっていません。
一般的に「どこからが宇宙なのか」という問いに対しては国際航空連盟(FAI)が定義した高度100km以上が宇宙である、とされることが多いです。しかし、前述の記事でも触れられている通り、米空軍や米連邦航空局 (FAA)、米航空宇宙局(NASA)では高度50マイル(約80km)以上を飛行することで宇宙飛行士と認められ、実質的に高度約80km以上を宇宙と定めています。とすれば、アメリカの企業であるヴァージン・ギャラクティックによってアメリカで発着する宇宙旅行としては、「高度50マイル(約80km)以上が宇宙」であるとの定義を採用するのも理解できます。
しかし、ヴァージン・ギャラクティック社も当初は100km以上を飛行することを計画していました。
Virgin’s rocket plane would be brought to high altitude by a carrier airplane, then dropped into the air for launch to heights greater than 62 miles (100 kilometers).
「ヴァージンの宇宙機は母機の飛行機によって上空高くまで運ばれ、空中から放たれたのち、高度62マイル(100km)以上まで到達する」
実は計画途中で100kmまで届かないことがわかり、採用する宇宙の定義の方を変えたという経緯があります。また、前述の試験飛行動画を見てもわかる通り高度80kmでも空は黒く、十分に「宇宙」です。問題は宇宙旅行を予約している顧客や今後の顧客がどう捉えるか、ですが、知る限りこれを大きく問題視する初期予約者の話は聞きません。ヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅行は機体のユニークさや専用宇宙服など他社にない宇宙旅行それ自体以外の魅力も多く、得がたい体験になっていると思われます。
しかし今後の顧客に対しては楽観的ではいられないかもしれません。
「世界初の商業サブオービタル宇宙旅行企業」はどこに
それはサブオービタル宇宙旅行の競合であるブルー・オリジン社の動向です。同社は先日から2021年7月20日に初の有人打ち上げを予定し、これの搭乗権のオークションを実施しています。現在(2021年5月22日)時点の最高入札額は約3億円です。
今回のフライトで支払われる料金はすべて別団体に寄付されるとのことですが、それでも有料のサブオービタル宇宙旅行を実現したのはブルー・オリジンが先、という認識となりそうです。そしてさらに重要なのはブルー・オリジンのサブオービタル宇宙旅行は100kmを越えるものだということです。これは「宇宙旅行」をしたい見込顧客にとっては、定義の問題がない魅力的な選択肢となります。
ヴァージン・ギャラクティックは当初こそスペース・アドベンチャーズという競合がいましたが、スペース・アドベンチャーズがサブオービタル宇宙旅行を実質的に断念して以来、ほぼ1社で宇宙旅行の話題を独占することができました。しかし、今後は前述のブルー・オリジンだけでなく、目的地は違えどスペースXや、再度活動を活発化してきたスペース・アドベンチャーズと「宇宙旅行」の分野で競っていかなければなりません。
しかし、ヴァージン・ギャラクティックには他社にない、他分野にも通用するブランドがあります。これをフル活用することで、顧客への提供価値に「宇宙旅行」以外の体験価値を付加し、総合力で勝負できると考えています。
ただ、宇宙開発は遅れることが常とはいえ、ヴァージン・ギャラクティックは2005年当初の2008年商業フライト開始という計画をここまで延ばしてきた経緯があります。それをふまえるとまだまだ予断は許さない、といわざるを得ません。引き続き期待しつつ、注視していきたいと思います。
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