自社の宇宙機で初めて「宇宙」に行くのはジェフ・ベゾスかリチャード・ブランソンか。早さだけでは決着しない理由は?

宇宙ビジネス

民間宇宙機によるサブオービタル宇宙旅行が目前に

2004年に民間宇宙機の賞金レース「X PRIZE」で、世界で初めて民間開発の宇宙機による宇宙空間到達を達成し賞金を獲得したスケールド・コンポジッツ社の「スペースシップ・ワン」。これをベースにした宇宙機「スペースシップ・ツー」で宇宙旅行を実現しようとしているのが、英ヴァージン・グループの宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックです。ヴァージン・グループの知名度もあり、同社は2004年の創業から宇宙旅行時代を象徴する存在としてメディアを賑わせてきました。そしてヴァージン・グループの顔として前面に立っていたのがヴァージン・グループ総帥のリチャード・ブランソン氏です。

2021年7月11日に搭乗するクルー。右から3番目がリチャード・ブランソン氏(via Virgin Galactic)

ジェフ・ベゾス氏、7月20日の宇宙飛行を発表

2021年5月、ブルー・オリジンの宇宙機ニュー・シェパードによる初の有人宇宙飛行の座席がオークションで提供されることが発表されました。初の有人宇宙飛行はアポロ11号が月面着陸を達成した記念日でもある7月20日です。

そして翌月の6月7日、このフライトにジェフ・ベゾスも搭乗することが発表されました。自分の宇宙旅行ベンチャーが開発する宇宙機、しかもテストも含めて初の有人飛行に搭乗するとあってオークション実施発表時以上に話題となりました。そうした話題性もあってか、その後にオークションも落札額2800万ドル(約31億円)と大方の予想を上回る金額で落札されています。

そして、ジェフ・ベゾス氏はこの宇宙飛行によって「自分の宇宙ベンチャーの宇宙機で宇宙に行く最初のビリオネア」となるはずでした。

リチャード・ブランソン氏も「偶然」7月に宇宙飛行を計画

ところが、ジェフ・ベゾス氏が宇宙飛行を発表した同日(6月7日)にヴァージン・ギャラクティックのリチャード・ブランソン氏が「ジェフ・ベゾス氏よりも早く宇宙に行くことを目指している」との情報が出ました。時期も米独立記念日の週末とされていました。

http://www.parabolicarc.com/2021/06/07/virgin-galactics-richard-branson-aims-to-fly-to-space-before-jeff-bezos/

確かに、冒険家でもあるリチャード・ブランソン氏としては、これまで(10年以上延期を繰り返しながらも)サブオービタル宇宙旅行への期待を牽引してきた自負もあるでしょうから、ここまできて「初」の座を明け渡すのは我慢ならん(と言ったかどうかはわかりませんが)、となることは十分に考えられます。しかし、実現には米国連邦航空局(FAA)からの認可が必要とされており、スケジュール的にはかなり厳しいと見られていました。

ところが6月25日にFAAから承認を得たとの発表があり、リチャード・ブランソン氏の宇宙飛行が現実味を帯びてきました。

https://jp.techcrunch.com/2021/06/28/2021-06-25-faa-clears-virgin-galactic-for-commercial-astronaut-spaceflight/

そして当初の観測にあった米独立記念日(7月4日)が目前となった7月2日、リチャード・ブランソン氏の「宇宙」行きが発表されました。飛行予定日は2021年7月11日、ジェフ・ベゾス氏よりも9日早い日程です。

wsj.com
リチャード・ブランソン氏、ベゾス氏より9日早く宇宙へ
Vergin Galacticの創業者、サー・リチャード・ブランソン氏が、7月11日の同社宇宙船のテストフライトに参加すると発表した。Blue Originのジェフ・ベゾスCEOのフライトは7月20日の予定。ブランソン氏が世界で初の宇宙飛行...

リチャード・ブランソン氏は飛行予定がこの日となったこととジェフ・ベゾス氏の宇宙飛行との関連について問われ、「われわれが同じ7月中にフライトするのは信じられないほど素晴らしい偶然だ」とし、ベゾス氏を打ち負かすためではないと述べています。

この言葉を言葉通りに取る人はいないでしょう。しかしとにかく、あとは7月11日のフライトを無事成功させれば、「自社の宇宙機で宇宙に初めて行ったビリオネアはリチャード・ブランソン」であり、送り出した世界初の宇宙ベンチャーはヴァージン・ギャラクティックだといえることになります。

しかし、話はそう簡単に終わりません。

それでもブランソン氏が「初」と言いきれない理由

前述のPARABOLIC ARCの記事でも触れられていますが、リチャード・ブランソン氏がジェフ・ベゾス氏よりも先に飛行した場合、実際に「宇宙」に到達したかどうかについて意見が分かれる可能性があります。

宇宙は一般的にFAI(国際航空連盟)が定義する「高度100km以上」といわれることが多いですが、実は世界的な共通基準は定まっておらず、米空軍などは「高度80km以上」を宇宙としています。ヴァージン・ギャラクティックの宇宙機スペースシップ・ツーは現在の性能上90kmほどまでしか上がれないため、同社は計画当初「高度100km」としていた宇宙の定義を変更し、現在は「高度80km以上」を採用しています。

一方でジェフ・ベゾス氏が搭乗するブルー・オリジンのニュー・シェパードはこれまでの15回のフライトのうち12回で100kmを超えています。「自社の機体」で初めて飛行したのはリチャード・ブランソン氏であったとしても、「宇宙飛行」であったかは採用する宇宙の定義によって変わるのです。

なぜ「宇宙」の定義が重要なのか

しかし、そうはいっても窓からの眺めなど、宇宙を感じる体験としてはさほど変わらないはずです。さらにいえば、「宇宙っぽい」黒い空と地球を見たいと思ったら高度30kmほどでも十分に雰囲気を味わえます。スペース・パースペクティブが提供する気球を用いた「ほぼ宇宙」旅行はこのタイプです。これが約1400万円。他にも、かつて旧ソ連の戦闘機ミグ29で高度20kmに上がって丸みのある地球を眺めるツアーがアクロバット飛行付きで約250万円でした(今はあるか不明です)。宇宙っぽい体験でよければ、費用としてもかなり抑えられることがわかります。

だからこそ、わざわざそれよりも高い費用をかけて「サブオービタル宇宙旅行」をするのであれば、それが「宇宙」であることが重要、といえます。もちろん、価値観は人それぞれであり、ヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅行をすでに申し込んでいる人はむしろそれ以外の利点も大きかったので現在のところは重要視されない可能性も高いと思われます。しかし、将来的な影響についていえば無視できないものと考えています。

また、ヴァージン・ギャラクティックの本拠地である米・スペースポート・アメリカから運用する場合はこのアメリカの基準(高度80km)を採用することの説明はつきやすいですが、将来的に各国での運用を目指す場合はどう扱われるのか、という問題も残ります。ヴァージン・ギャラクティックにとっては今後の展開に制約を受けてしまうこととなるため、どこかの段階で解決したいのではないでしょうか。

ブルー・オリジンは早速この問題を指摘

ヴァージン・ギャラクティックによるリチャード・ブランソン氏の飛行の直前である7月10日、ブルー・オリジンは公式アカウントで両社の宇宙機の比較表と共に以下のツイートを行いました。

ニューシェパードは当初からカーマン・ラインの上を飛ぶように設計されていたので、宇宙飛行士の名前の横にアスタリスクが付くことはありません。世界の人口の96%にとって、宇宙は国際的に認知されたカーマン・ラインの100km上空から始まります。

これに続くツイートで以下のようにも述べています。

80kmまたは50マイルの下限を宇宙の始まりと認識しているのは、世界のわずか4%です。ニューシェパードは、その両方の境界線上を飛行します。ブルーオリジン社のフライトを利用することで得られる多くのメリットのひとつです。

これに対してヴァージン・ギャラクティックはどのように応戦するのか、もしくはしないのか、イーロン・マスク氏は高みの見物を決め込むのか、興味は尽きません…。もしかしてこれは両社が仕掛けたマーケティング施策なのではないかと疑うほどです。

まずはリチャード・ブランソン氏のフライトを見守りたいと思います。

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