【聴講レポ】民間宇宙ステーション時代、日本はどう戦うか?「第2回有人宇宙ビジネスサミット」パネルディスカッション「国内企業による有人宇宙ビジネス推進の取組みと課題」

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国際宇宙ステーション(ISS)から、民間主導のポストISS時代へ。 地球低軌道(LEO)の商業化が現実味を帯びる中、2025年11月7日に東京千代田区の経団連会館カンファレンスで開催された「第2回有人宇宙ビジネスサミット」に参加してきました。

第2部のパネルディスカッション「国内企業による有人宇宙ビジネス推進の取組みと課題」では、日本テレビアナウンサーの浦野モモ氏をモデレーターに、日本で宇宙ビジネスに取り組む方たちが登壇。「これからの宇宙ビジネスの勝ち筋」と「乗り越えるべき壁」について議論が交わされました。

民間宇宙ステーション時代を語る!【JAMSS主催】第2回 有人宇宙ビジネスサミット開催【PR】 - SPACE Media
国際宇宙ステーション(ISS)の運用終了、その後の民間宇宙ステーション時代を見据え、地球低軌道(LEO)での宇

1. 登壇者:LEO商業化に挑む日本のプレイヤー

登壇されたのは、以下の6名です。

  • 井上 実沙規 氏(株式会社日本低軌道社中) 日本モジュールや商用物資補給船の開発など、地球低軌道の利用開発を通じ、単なるインフラ利用にとどまらない「日本独自の経済圏」構築を目指されています。
  • 村上 一馬 氏(三菱商事株式会社)
    米Starlab Space LLCへの出資など、総合商社のスケールで事業を展開。宇宙と非宇宙産業をどう「結びつけるか」という視点で語られています。
  • 山崎 秀司 氏(Space BD株式会社) 活用しやすい宇宙環境を目指したユーザー視点でのサービス開発が強み。使いやすい実験環境の提供など、参入障壁を下げる役割を担っています。
  • 根本 健吾 氏(有人宇宙システム株式会社 / JAMSS) 長年の「きぼう」運用で培った信頼と技術が武器。民間ステーション「Axiom Station」への参画や、企業連合体の取り組みなど、日本企業のハブとなる存在です。
  • 石川 靖朗 氏(兼松株式会社) 宇宙機「ドリームチェイサー」の「大分空港への着陸」構想は、宇宙と地方創生を結ぶ新たなエコシステムとして期待が高まります。
  • 安養寺 正之 氏(株式会社デジタルブラスト) 小型ライフサイエンス実験装置「AMAZ(アマツ)」の開発など、技術とインテグレーションの両面から研究者を支援しています。

2. 「宇宙で何をするのか?」——見えてきた3つの有望市場

議論の中心は、「民間ステーション時代に、具体的にどのようなビジネスニーズが生まれるか」という点。パネリストから挙げられたのは、「地上課題の解決」に直結する以下の3つの領域でした。

① 通信・宇宙データセンター

単なる通信の中継点としてだけでなく、「宇宙にデータセンターを置く」という利用方法について語られました。宇宙空間で取得した膨大なデータを、地上に降ろさずにその場で処理する。セキュリティや処理速度の観点からも、重要な次世代のインフラとして位置付けられていました。

宇宙データセンターについては実際にいくつかの構想がありますが、個人的にはこれまであまり有用性や実用性を感じていませんでした。地上のデータセンターで課題となっている電力や放熱問題の解決だけを考えるのであれば、代替策として宇宙環境のリスクやコストが勝りすぎると感じていたためです。しかし、民間宇宙ステーションが本格化し、活用場所が増えてくれば宇宙で処理する方が経済合理性がある場合も増えてきそうです。

② エンターテインメントとIP活用

日本の強みであるコンテンツIPを活かしたビジネスです。「きぼう宇宙放送局」のようなライブ配信や広告利用など、宇宙への「ワクワク感」を価値に変える試みは、日本が世界で勝てる領域と感じました。これは宇宙開発の課題としても語られる「宇宙開発の機運」を醸成することにも繋がります。

③ 宇宙工場(In-Space Manufacturing)

微小重力環境を活かした製造・研究開発です。ここはISSから引き続き期待していきたいところです。

  • 次世代半導体材料の結晶化
  • カーボンナノチューブなどの新素材製造
  • 再生医療創薬支援

3. 現場が語る「リアルな課題」と解決策

一方で、ビジネス化に向けた課題についても率直な意見が飛び交いました。

  • リードタイムとコストの壁 実験サンプルが戻ってくるまでの期間が長く、サンプルの鮮度が落ちてしまう問題。また、打ち上げスケジュールの不確実性は、ビジネス計画を立てる上で大きなリスク要因です。
  • 知見の属人化 宇宙実験の手順は複雑で、ノウハウが特定の個人や組織に偏りがち(暗黙知化)です。新規プレイヤーが参入しにくい要因となっています。
  • 「死の谷」をどう超えるか R&D(研究開発)から、投資を回収できる「事業」へと昇華させる難しさ。多くの企業がこのフェーズで苦戦しているのが実情のようです。

しかし、悲観論だけでなく解決策もセットで議論されました。 宇宙からサンプルをタイムリーに帰還させる手段は現在も複数の取り組みがあります。また、宇宙開発に関する知見をデータベース化し、活用できるようにすることや、ユーザーと宇宙の間をつなぐ「インテグレーション機能」の強化による参入障壁の緩和など。課題ひとつひとつに対し、業界全体で解を見つけようとする姿勢が印象的でした。


4. おわりに

今回のパネルディスカッションでは「オールジャパン」の重要性も語られました。

ただ、過去に「オールジャパン」を掲げた取り組みで、その後うまくいったという例を自分は思い出せません…。まだまだ変化の多い業界で成長していくためには、目指す方向性は共有しつつも、各企業がそれに縛られないことが必要なのかもしれませんね。

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