【GRIC2025聴講レポ】SpaceTechの最前線 │ 世界の宇宙開発における実態と日本の勝ち筋

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2025年11月13日(木)、渋谷ヒカリエで開催された「GRIC2025 (GROWTH INDUSTRY CONFERENCE 2025)」で、宇宙開発の「実業」としての側面と日本の可能性を探るセッション「SpaceTechの最前線 │ 世界の宇宙開発における実態と日本の勝ち筋」を聴講しました。

本セッションでは、日本のSpaceTechを牽引するプレイヤーによって世界の宇宙開発の「実態」と、日本が世界で勝つための勝ち筋について議論が交わされました。ここではセッションで語られた内容のうち、特に「日本の勝ち筋」に焦点を当てて、その要点をお届けします。

登壇者(敬称略)

  • 中馬 和彦(株式会社みずほフィナンシャルグループ 執行役員 CBDO)※ファシリテーター
  • 袴田 武史(株式会社ispace 代表取締役CEO & Founder)
  • 高田 真一(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙戦略基金事業部 技術開発マネジメントグループ長 / 新事業促進部 事業開発グループ長)
  • 高田 敦(株式会社スペースデータ 執行役員 グローバル戦略・宇宙利用担当)

宇宙ビジネスの「現在地」

「日本の勝ち筋」を理解する前提として、まず宇宙産業の「現在地」が共有されました。ポイントは以下の2点です。

1. すでに生活に根付く「宇宙利用」

JAXAの高田真一氏によれば、世界の宇宙産業は100兆円規模への成長が見込まれています。

その市場の大部分(約2/3)はロケット打ち上げなどではなく、「通信」と「測位(GPSなど)」です。 「Uberが宇宙産業だと認識している人は少ないでしょう。しかし、そのビジネスはGPSなしには成り立ちません」という発言もあり、宇宙技術はすでに身近なサービスに不可欠なものとなっている現状があります。

2. 「月面開発」のリアルな動向

ispaceの袴田氏からは、月開発の現状が語られました。2040年以降、月面経済圏は20兆〜30兆円規模になる可能性があり、もはや探査フェーズではなく、米中が資源や拠点をめぐって競争する安全保障としても重要なフロンティアとなっています。

2040年というと結構先に思えますが、2040年をただ待つのではなく、月面活動を支える「通信」「輸送」「ライフライン」といったインフラ整備のビジネスを、今、先行して立ち上げていくことの重要性が語られました。


本題:日本の「勝ち筋」はどこにあるのか?

では、アメリカや中国が圧倒的な資金力で開発を進める中、日本の勝ち筋はどこにあるのでしょうか。登壇者からは、日本ならではの3つの強みが示されました。

勝ち筋1:高品質な「モノづくり」の信頼性

「宇宙空間では、機器が故障しても基本的に直せません」と袴田氏が指摘するように、(ごく一部の例外を除いて)一度宇宙に打ち上げたら現地で修理するのは簡単ではありません。こうした環境では「高品質・高信頼性」なモノづくりが重要になります。

JAXAの高田真氏からも、「アメリカの主要な衛星にも、日本の部品が多く使われている」という話がありました。

また、(どちらもイーロン・マスク氏による企業である)スペースXとテスラはエンジニアリング(部品やアビオニクス)を共通化することで自動車産業で培われた技術がそのまま宇宙で活かされているといいます。これは、自動車産業をはじめとする日本の製造業にとっても、宇宙には非常に大きなチャンスがあることを示しています。

勝ち筋2:生活を支える「インフラ」の総合力

袴田氏は、日本のもう一つの強みとして「島国で培った生活エコシステムの総合力」を挙げました。

「日本は島国として『生活圏を丸ごと構築する力』が、宇宙という全く新しい生態系を作る上で、他国にはない強みになります」 (袴田氏)

確かに身の回りをコンパクトにすることや、そうした発想は宇宙に合ってるかもしれません。いい意味での「島国根性」が活かされる場面ともいえそうですね。

勝ち筋3:精神性と「コンテンツ」力

スペースデータの高田敦氏は、日本人の精神性にユニークな強みがあると語ります。

「古来、日本人は月を眺め、うさぎがいると想像してきた国民です。この『宇宙への親近感』『物語(ナラティブ)を作る力』は、エンターテイメントやコンテンツ分野で強みになります」 (高田(敦)氏)

例えば、「宇宙」と「インバウンド(観光)」など、異業種との掛け合わせで新しいサービスを生み出す発想力が、日本の差別化ポイントになるという指摘です。

すでに事例もあるように、宇宙に繋がるコンテンツは世間の興味や理解を高めることも期待できるので、今後も様々な切り口のコンテンツが出てくることを期待したいですね。


私たちが「今」すべきこと — 3つの提言

セッションの最後には、これから宇宙ビジネスに関わろうとする人たちへの具体的な提言が送られました。

1. 「1日1分」空を見上げ、発想を転換する

高田敦氏は、「1日1分でも空を見上げ、自分の仕事と宇宙がどう繋がるか考えてほしい」と呼びかけました。

「スペースXは最近、病院を買収しました。宇宙の放射線を防ぐシールド技術が欲しかったからです。病院の放射線施設の技術を手に入れるためでした。この『発想の転換』こそが重要です」 (高田(敦)氏)

既存の技術や資産も、視点を変えれば宇宙ビジネスに繋がる可能性があります。

2. 「失敗できない」マインドセットからの脱却

袴田氏は、日本の宇宙産業が「失敗できない」文化に縛られてきた側面があると指摘します。

「今までの宇宙開発は、国家予算を預かるため『失敗しないこと』を最優先にしてきました。しかし、イノベーションは『失敗を恐れずにトライする』マインドセットからしか生まれません」 (袴田氏)

3. JAXAや宇宙戦略基金を「活用」する

JAXAの高田真氏は、「非宇宙企業」の参入を強く歓迎しています。

JAXAの「J-SPARC」プログラムや、昨年始まった1兆円規模の「宇宙戦略基金」など、民間企業が宇宙ビジネスに挑戦するための土壌は整っています。「我こそは」という技術を持つ企業は、ぜひJAXAの門を叩いてほしいとのことでした。


まとめ:全ての産業に「宇宙 × 〇〇」のチャンスがある。が…

「インターネットが登場した時、『〇〇 × インターネット』で全ての産業が革新したように、これからは『〇〇 × 宇宙』がイノベーションのドライバーになる」

最後にはこのように語られました。

さて、『〇〇 × 宇宙』はこれまでも多くの挑戦がされてきましたが、かなり昔から言われ続けているのは、本当のイノベーションが起こるためにはまだまだ数が足りない、ということなのかもしれません。月面探査やロケット、人工衛星、衛星データ活用など王道の宇宙開発がさらに発展するためには、それらへの理解や賛同を促す、より広い範囲での宇宙の浸透が必要といえそうです。


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【GRIC2025聴講レポ】日本のエンタメが世界で「勝つ」ために必要なこと—ビジネスモデル変革とグローバル戦略セッション|hakoda
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