先日、あるパーティーでアートビジネスに関わる方に話を聞く機会がありましたが、それは非常に興味深いものでした。例えば一口に「アートの価格」といっても、様々なものがあるということ。仮にオークションで500万円から800万円の幅で落札されるとみられる作品の場合、「この作品はどれくらいで売れるだろう」という意味の価値下であれば、とりあえず下限の500万円、ということができます。しかし、何かの理由ですぐに現金化しなければならない場合は要注意です。一般的にアートは流動性が低く、すぐに売れないことが多いため、大幅にディスカウントする必要があるのです。その場合の価格を処分価格といい、およそ半額とされるそうです。一方で、その作品を傷つけてしまい、(一点ものでなければ)再度欲しいと思った場合、百貨店などで購入するとオークション価格の3倍、1500万円ほどになります。これを再調達価格といいます。
つまり、最低の処分価格と最高の再調達価格には6倍もの開きがあるということになります。しかし、一般的にはこうしたことがあまり知られておらず、そのためにトラブルが起きることもあるそうです。僕自身はアートを購入する習慣はないのですが、考え方としてこれは大変参考になりました。
ところで、今年月周回旅行を申し込んだことを発表したZOZOの前澤氏の例を出すまでもなく、宇宙分野でもアートは盛んです。宇宙をモチーフにしたアートだけではなく、ARTSATのように人工衛星を使った表現なども出てきています。ALEの人工流れ星も宇宙を使ったアート表現といえるかもしれません。
参考記事:ZOZO前澤氏の月旅行は総額750億円以上か? 搭乗者最大9人の気になる「旅費」
しかし、宇宙のアート活用が進む一方で、これらのアートを持続可能な活動とするためには、どうマネタイズするかについては課題が多くあります。
大きな課題のひとつは例えば人工衛星の場合、基本的に打ち上げられた衛星は戻ってこないという点があります。なんらかの権利を設定して売買する方法は考えられますが、やはり実物を見ることができないのは興味を持つターゲットを大いに狭めることになってしまい、結果、大きなマーケットにはなりません。
人工衛星など具体的な物を主としない宇宙からのリアルタイムデータを活用したアートもありますが、こうしたインスタレーションは時間軸も表現の一つであるため、売りにくいという面があります。また、メディアアートが抱える問題と同じく、稼働させ続けるにはメンテナンスコストがかかり、どこかの段階で故障やハードウェアの陳腐化により、死を迎えることも避けられません。
その意味では「流れ星」も表現に関わる要素として「時間軸」が外せないため、ストックの価値は持ちにくく、一度きりの体験という希少価値が主な価値となります。そのため、やはり従来のアートマーケットにはなかなかなじまないのが事実です。
では、宇宙に関するアートをアートビジネスとして成り立たせるにはどんな方法があるかといえば、もっともわかりやすい方法は「残るもの」を最終的な作品とすることです。従来、映像を主な表現としてきた、あるアーティストの方は自分の作品をオークションや美術館などで購入される作品とするために映像だけでなく、実物も作るようにしたそうです。しかも、100年、200年先も残るように丈夫な素材で作られています。その意味で、メディアアートがどう成り立っていくか、また、そのためにどう変化していくかは本来のアート表現の変遷とは別に生存戦略として宇宙アートにも適用できる方法がありそうです。
そしてちょうど今年(2018年)、山口情報芸術センター(YCAM)ではメディアアートの寿命をテーマにした展覧会「メディアアートの輪廻転生」展があったそうですが、「寿命」もメディアアートの魅力のひとつとすれば、宇宙アートもそうした「弱点」を残しながら発展していく方法があるのかもしれません。すべてはアートの受け手側の意識の変化次第といえそうです。
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