物事にはさまざまな人が関わり、その人の数だけ見方がある。
2005年8月、JTBは米宇宙旅行企業スペース・アドベンチャーズ社との業務提携を発表した。この本はJTB社員として宇宙旅行事業実現に奔走した中村豊幸さんの動きを中心に描かれたビジネス・ノンフィクションだ。
2005年は筆者にとっても宇宙関連でさまざまなことが起こった年だった。本文中にはそれらとリンクするものもあり、とても懐かしく読むことができた。
筆者はちょうどそのころ宇宙旅行の予約を検討している時で、そのため、文中にも出てくるスペース・アドベンチャーズ日本支社代表の横山龍宏さんとしばしば連絡をとっていた。JTBの発表がある少し前のある日、横山さんと電話していたら近々イベントがあり、それに招待できるかもしれない、という意味のことを聞いていた。その時は全く何のことかは教えてくれなかったが、それがJTBとの業務提携のことだったのだ。記者発表予定がリリースされると、見込み客ということで招待していただくことができた。平日だったので筆者は確か半休を取って少し遅れて会場に向かったのだが、あの熱気は忘れられない。筆者はここで、同じく宇宙旅行の予約を検討していて、その後、共に宇宙ビジネスに取り組んだ星野誠さんとも初めて会っている。
さらに、文中に出てきた「ガイアの夜明け」の取材クルーの方たちとも、その秋にニューメキシコ州ラスクルーセスで開催された民間宇宙機イベント「Countdown to X Prize Cup」の会場でお会いしていた。宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴さんや米ロケットプレーン社のチャック・ラウアーさんとお会いしたのも、その時が最初だ。
ただ、いい思い出ばかりではない。p.200に2006年3月に行われた「銀座の学校」というトークイベントで中村さんが話す場面がでてくるが、実はこのイベントには横山さんも出演する予定だったのだ。筆者もこのトークイベントを聞きに行っていた。久しぶりに横山さんに会えると思っていたのでびっくりしたものだ。その後、本文中にあるように2006年1月に米スペース・アドベンチャーズ社から契約解除されていたことを知った。横山さんはNTTトラベル社員時代の2002年春に宇宙旅行の説明を行うWebサイトも立ち上げて代理店を始めている。p.226に宇宙旅行の動きについて「その火をつけたのは中村豊幸というサラリーマンだった」とあるが、火をつけたのは横山さんの方が適しているかもしれない。(同様の感想はkazuhitoさんのブログでも)
もちろん、中村さんの功績も大きい。中村さんはその種火を爆発させ大きくしたブースターの役割を担ってくれたと考えている。実際、JTBが宇宙旅行を取り扱っているという事実は本文中でも宇宙旅行の課題として指摘されている「宇宙旅行の現実感」を強く裏付けてくれるものだった。
最初の指摘に戻るが、物事にはさまざまな人が関わり、その人の数だけ見方がある。
本書中にも登場するTV番組「ガイアの夜明け」は横山さんを中心に据えたものだったが、その中にもあった交渉シーンが今回中村さんの視点で描かれることで、当時の様子が多面的に浮かび上がってきたことが個人的に非常に興味深かった。
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