2009年3月5日、東京・千代田区のグランドプリンス赤坂にて「JAXA産学官連携シンポジウム~オールジャパンで取り組む宇宙産業の育成~」が開催された。概要は公式サイトにも掲載されるとのことなので、ここではシンポジウムに参加しての感想を述べたい。
「宇宙産業を21世紀の戦略的産業として育成するために、産業界とJAXAは何をするべきなのか? 産業界・行政・JAXAが一堂に会し、オールジャパンで取り組む産業振興の方向性を導き出します。」
本シンポジウムでは上記のテーマのもと講演とパネルディスカッションが行われたが、そこで繰り返し挙げられていたのは、宇宙産業が日常生活に関わりながら発展するための「宇宙利用」の重要性だった。
残念だったのは肝心の「宇宙利用」の方向性がいまいち見えなかったことだ。
「宇宙基本法に対する産業界の意見」で登壇した社団法人日本経済団体連合会産業第二本部長の続橋聡氏も「宇宙利用の拡大」の重要性を訴えながら、具体的な利用法は「探せば探すほど、みつからない」というほどだ。
では宇宙利用のバリエーションを広げるのは不可能かというとそうではないだろう。
そのためには今回のシンポジウムで見落とされながら、ようやくパネルディスカッションの最後で同志社大学大学院ビジネス研究科の村山裕三教授らが指摘した、ある課題を解決する必要がある。
それが「宇宙村」と呼ばれる閉じた構造だ。
宇宙利用の「裾野」を広げる、という目標はすばらしい。しかし、いかんせん現状が伴っていない印象を受ける。それを示すかのように資料にあった宇宙産業の構造をあらわす「三角形」の底辺が広がっていくスライドの挿絵は2~3年前から変わっていない。
もちろん、オープンラボやJAXA COSMODE PROJECTなど、動きがないわけではない。
では、なにが問題なのだろうか。
厳しい言い方になってしまうかもしれないし、精神論に聞こえてしまうかもしれない。しかし期待を込めてあえていえば、「本気さ」が足りないのではないかと思う。様々な施策を一生懸命進めているのは分かる。でも、もう一歩「宇宙村」の外に伝わってこないのだ。
そうした面を示す端的な例になるが、懇親会中に熱心に来場者とコミュニケーションをとっているJAXAの方がいる一方で、JAXA関係者だけで固まって談笑している様子が時折見られたのは残念だった。筆者は以前、とある社団法人や企業で懇親会を催すホスト側の立場だったことがあるが、懇親会中は組織のトップからスタッフにいたるまで全員で来場者をもてなし、文字通り懇親を深め、同時に自分たちの活動への理解を深めていただくことに徹していたものだった。当然、懇親会中は食事の列に並ぶようなことはしない。一人で手持ち無沙汰にしているお客様がいないか、常に気を配っていた。純粋に楽しむためのホームパーティーとは違い、シンポジウムに付随する懇親会とはホスト側にとってそういう場ではないだろうか。
制度は作るだけでなくきちんと伝える努力が必要で、実はそれが一番大変なことなのだ。
以前、iモードの立役者として知られる元NTTドコモ役員の夏野剛氏にインタビューしたことがある。その時、夏野氏は新しいサービスを始める際に必要なものに「執念」「努力」「クリエイティビティ」を挙げた。重要度もこの順番だという。「クリエイティビティ」があっても、伝わらなければ意味がない。それを伝えるためには「執念」「努力」が必要なのだと語っていた。
■《慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授 夏野 剛氏に聞く》 (東京IT新聞)
パネルディスカッションに登壇した三菱重工業株式会社航空宇宙事業本部宇宙機器部 部長の浅田正一郎氏も最後の言葉で「皆さん、宇宙開発を本気でやっていますか?」というメッセージを投じ、日本スペースイメージング株式会社代表取締役社長の神山 洋一氏は「『ビジョン』と『覚悟』」が必要と語っている。
一朝一夕には難しいかもしれないが、自分自身も含め、心がけていきたい点だ。
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