今年5月にロサンゼルスで開催された第25回国際宇宙開発会議(ISDC)でCGアーティストの河口洋一郎氏にお会いした。宇宙開発とCGというと、技術的なシミュレーションなどが用途として浮かぶが、河口氏の考えは別のところにある。
「環境としてのCG」だ。
宇宙空間は(現在は)機能性が重視され、無機的な空間になりやすい。また、温度・湿度などの環境は一定で、視覚的な変化も少ない。将来、人間が普通に宇宙に行くようになったとき、そうした環境での長期滞在に(訓練を重ねた宇宙飛行士ならまだしも)果たして普通の人は耐えられるのだろうか。
地球上の自然は絶えず変化する。水流に手を入れれば波が立ち、草に手を触れればざわめく、そうした行動に対するフィードバックが環境として存在する。河口氏は、そうした自然のような「反応する環境」の構築を考えているとのことだ。
インタラクティブなメディアアートは数あれども、その活用の場として宇宙空間を挙げる河口氏の試みに、今後も注目していきたい。
ところで、この話を思い出したのはCNETで以下の記事を読んだことによる。記事中で紹介されている作品も、そうした試みに活用できるだろう。
ただ、人間は飽きやすい生き物である。宇宙生活空間に構築された環境の反応を当初は面白がるだろうが、それだけでは「同じ反応」として変化のない環境と同様になってしまう。
ではどうすればよいか。
私としては、最終的にやはり自然の力を借りることになるのではないかと思っている。地球上の自然をそのまま、宇宙に転送するのだ。当初は地球上の映像・音を高精細で転送し、立体映像を居住空間に映し出すというところまで。さらに進化したら立体映像に対するアクションを地球に転送し、なんらかの方法で地球上の環境に再現する。技術をインタラクティブな環境そのものを作り出すことに使うのではなく、2つの環境をつなぐことに活用するのだ。本物の自然なのだから、厳密に同じということはない。ダイナミックな変化もないかもしれないが、そこで起こる小さな変化こそが、逆に安らぎを与えてくれるのではないか。
こうした考えは新しくはない。20世紀に夢見ていた21世紀の未来像にも同じようなものはあった。しかし、現状課題との関係が実感され始めた現在、色褪せかけていた未来像がもう一度別の意味付けをもって鮮やかさを取り戻すことは十分にあるだろう。
これも温故知新というべきか。
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