X PRIZE CUP に行くことを決めてまず考えたのは、おそらく民間宇宙旅行にとって大きな節目となるはずのこのイベントをどう記録するかだった。というわけで、まずは最近明らかに力不足が目立ち始めた120万画素のデジカメを500万画素のものに買い換えた。これで幾分きれいな画像で記録することができる。
しかし、いくらデジカメできれいに記録してもしょせんプロのカメラマンにかなうわけではない。そもそも自分は露出やフォーカスというものもよくわからない。
であれば、逆にきれいであることはすっぱりあきらめて、とりたいようにとってみたいと思った。
そんなことを漠然と考えながら本屋をぶらぶらしているとき、「HOLGA」というカメラを見つけた。いわゆる「トイカメラ」というもの。見た目はちょっとごついけど、実際触ると驚くほどチープなまさにおもちゃのカメラ。フォーカスや露出調整は一応ついてはいるけれど、ほとんど意味はないらしい・・・。つまり、シャッターを押すこと以外しなくていい、というか、できることはない。
その瞬間、「これだ!(・・・たぶん)」と思った。
サンプルの写真を見てみるとこれがとても面白い。デジカメのくっきりした画像と違い、プラスチックレンズを通した柔らかい感じや、普通のカメラであれば明らかに「不良品」とされてしまうような四隅の光量不足や歪みがかえってその場の空気を素直に伝えているように感じた。しかも、これほどチープな本体でありながらフィルムはプロ用のブローニーフィルムというアンバランスさ!(もちろんブローニーフィルムなんてこれまで使ったことはない)そして、それはおそらく世界で唯一、トイカメラで撮ったX PRIZE CUPの記録になるということもカメラのプロではない自分が撮る意味を考えるうえで重要だった。
ちょっと悩んで、結局買ってしまった。
が、買ったのは出発の1週間前。試しにフィルム1本とってはみたもののブローニーフィルムの現像に時間がかかるということを知らず、一度も現像した写真をみることなく出発の日を迎えることに・・・。
出発前日、最新のデジカメと実は10年以上前から存在するこのノスタルジックなカメラを並べてみると、それはX PRIZE CUPに集う最新の宇宙船と30年以上前から存在する宇宙船ソユーズの対比にも似ているように感じた。
以下は自分がHOLGAを通して観たX PRIZE CUPである。
Mojave, CA
アメリカ
カリフォルニア州モハーベ
2004年10月にスペースシップワンがX PRIZEを獲得した場所であるモハーベ空港はロサンゼルスの北160kmにある。中古旅客機の展示場としても使われ、様々なテストフライトがここで行われている。スペースシップワンのスケールド・コンポジット社やXCOR社が社を構えている。今回、XCOR社内を見学できたのは自分にとって大きな収穫だった。
モハーベ自体は寂れた風のとても地味な町で、あたりは貨物路線が走っていたりつぶれた店が点在していたり、宇宙旅行産業で話題の町というイメージとはかけ離れているものだった。しかし、それは同時に華やかに見える今の宇宙旅行産業が、実はいまだ荒涼とした砂漠にたったひとつの花が咲いただけであるということをあらわしているようにも思えた。
Alamogordo, NM
アメリカ
ニューメキシコ州
アラモゴード
X PRIZE CUPの会場であるラスクルーセスの隣に位置するアラモゴードには「New Mexico Museum of Space History」がある。エルパソからアラモゴードに向かう道で初めてX PRIZE CUPの看板を見つけ、うれしくなったのを覚えている。また、カーラジオで聞いていたFM ALamogordoでも突然 X PRIZE CUP のCMが流れ、とうとう近くまでやってきたということを実感した。
アラモゴードで道に迷ったとき、ふと横を見ると逆光の夕日に大きなシルエットが現れた。自分の思い入れが強すぎるのか、それはまるで旧式のロケットのように見えた。
Las Cruces, NM
アメリカ
ニューメキシコ州
ラスクルーセス
X PRIZE CUP当日はその場を体感することに精一杯で、いまから思えばもっと撮っておきたいものもあった。被写体に寄った画が多すぎるのもそんなあわただしさをあらわしているといえなくもない。デジカメやDVでとった画像と並べると周辺の状況もわかりやすいのだけれども、ここではそのあわただしさや視野の狭さも含めてその場の雰囲気を感じてもらえればと思う。
(当日のレポートはこちら)
To Space… |
コメント