宇宙旅行の価値とは、なにか(前編)

2012年3月10日に公開される映画「おかえり、はやぶさ」の完成披露試写会が行われた。以下の記事によればキャストの藤原竜也さんや杏さん、三浦友和さんらが舞台挨拶で登壇した際には、宇宙開発や宇宙旅行についてのコメントも聞かれたという。

宇宙旅行1500万円でたった4分の無重力体験に藤原竜也「家にいたい」

また、今年世界初の宇宙旅行が実現するということにちなんだ「宇宙に行けたら何をしたい?」という質問には、藤原は「すごく興味があるし、UFOを探すかな。1人で楽しみたいですね」と話し、杏は「地球と一緒に写真を撮りたい。球体になった水にストローを差して飲みたい」とキュートなコメント。だが、宇宙旅行にかかる費用はおよそ約1500万円で、4分間しか無重力空間を体験できないという。それを聞いた藤原は「4分じゃもったいないな。やっぱり家にいますかね。行かないよね?」と杏に話を振り、「もうちょっと格安パックなら」と杏。藤原演じる健人の弟分のような小学生を演じたのは、お笑いコンビ・まえだまえだの前田旺志郎は「1500万円なんて無理やん! タダなら行きたい」と子供らしい言葉で観客を和ませ、三浦は「日本の俳優ってこのスケールですよ」と現実的なコメントを発した。

正確には「世界初の宇宙旅行」は2001年に国際宇宙ステーションへ行ったデニス・チトー氏だが、ここでは今後サービス開始が予定されている、高度100kmの宇宙空間に到達して3〜4分ほど滞在して戻ってくる形のサブオービタル宇宙旅行を指しているようだ。今年からの開始を(あくまで)予定していて費用が1500万円ということで、これはヴァージングループの宇宙旅行会社であるヴァージン・ギャラクティックでの宇宙旅行を指している。少し前までは2000万円といわれていたのと同じものだ。本来の費用はドル建てで20万ドルなので、円高の分だけ、お得になっている。もう少し前には2200万円ほどだった。

それはそうと、どこまでが演出か本心からの感想かわからないが、インタビュー中での1500万円という価格に対する価値の設定が興味深い。

記事中で「宇宙旅行にかかる費用はおよそ約1500万円で、4分間しか無重力空間を体験できない」とあり、藤原竜也も「4分じゃもったいないな。やっぱり家にいますかね。」と答えている。

ここで価値の基準になっている最たるものは「時間」だ。

一般的に旅行の価値を決める要素のひとつに「期間」がある。日帰りよりも1泊2日のほうが「価値」がある。数ヶ月単位で滞在できたら相当贅沢な旅行に感じられる。「宇宙旅行」も旅行というカテゴリで考えると、期間は非常に重要に思える。

しかし、実際はそうではないだろう。少なくとも初期の「宇宙旅行」は。

宇宙旅行の価値はまずその体験価値にある。これは「無重力体験」に限ったことではない。宇宙に行って、宇宙から実際に観て、聞いて、感じたことすべてを含んだ体験だ。宇宙旅行は「旅行」というには未成熟で、むしろ「冒険」に近い。スキューバダイビングやスカイダイビングのようなエクストリーム系スポーツに近いのかもしれない。旅行といわれるもののなかで強いていえば南極旅行あたりだろうか。

そして、1500万円に対応する価値として「4分間の無重力空間」しか明確に認識されていないという点も重要に思う。無重力(正確には微小重力)状態は宇宙に行かなくても体験できる。多少長くなることで体験の幅は広がるが、それだけだ。宙に浮いた水を飲むくらいはおそらく急げばできる。なのに、なぜ無重力状態が宇宙旅行の価値として挙げられているかといえば、「宇宙のイメージとしてメジャーだから」ということに他ならないのではないか。

逆にいえば、無重力状態よりもさらにユニークなはずの、その他の体験を本当に憧れるほどイメージできる形で示せていないのだ。

では、どうすれば「宇宙旅行」の価値を正しく伝えることができるのか。

ひとつにはミスリードの元になっている「旅行」という言葉をいったん止めるということが考えられるが、実際は難しいだろう。長期的には旅行の一種になるはずだし、積極的に止めるのは得策ではないかもしれない。

とすれば「無重力状態」や体験時間の長さ以外の価値を、憧れるほど具体的にイメージしてもらう方法を考える、ということになる。

具体的には…長くなってきたので、改めて…。

(後編に続く)

コメント

  1. ひらやま より:

    私の指導教官だった故・長友信人先生が1990年代中頃に宇宙観光旅行の研究をしていたころの話です。当時の院生が海外旅行の費用と比較する修論を書いていたのですが、先生も「宇宙旅行」という言葉に疑問を投げかけていました。
    「従来の旅行と言うのは目的地への移動を重視しているのに対し、宇宙観光旅行はオービタルもサブオービタルも、基本的に出発地点に戻る。特にサブオービタルは短時間なので、旅行というより、遊覧飛行や、遊園地のアトラクションの延長なのではないか。特にユーザーのコスト意識を調査するうえで、海外旅行費用と比較するより、短時間で高価格な遊園地のジェットコースターの方が近いかもしれない。」
    というような内容でした。アイデアの発言なので、実際どっちのコストモデルが良いのかは未検討です。

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